photography=Great The Kabukicho [portrait]
interview & text=Masaaki Hara
新作アルバム『ジグザガー』をリリースしたばかりのトランペッター黒田卓也は、自身のバンドを率いて、MISIAとの初めてのステージをBlue Note JAZZ FESTIVAL in JAPANで披露する。これまでも、JUJU、Nia、Hanah Springなどの女性シンガーのアレンジも担当し、今回はセルフ・プロデュースでアルバムも制作して、プロデューサー/アレンジャーとしても頭角を現してきた黒田卓也が、MISIAを迎えてどのような演奏をするのか、興味は尽きない。今回のステージに向けての黒田卓也の意気込みが伝わる最新のインタビューをお届けする。
(※このインタビューはまだ二人が実際に音を出す前の段階でおこなわれたものである)
——ニューヨークで開催されているBlue Note JAZZ FESTIVALに行かれたことは?
「実はよく知らなくて、意識したことがなかったです」
——フェスの一環だと意識せず行っていたかもしれないですね。
「好きなライヴがあったら行ってたので、そうかもしれないですね」
——野外のジャズ・フェスにはかなり出られていますか?
「ええ、もちろん。ロンドンのLove Supremeとか、Atlanta Jazz Festivalとか、ホセ(・ジェイムズ)と世界中のフェスに出ましたね。この前はちょうどウクライナのコクトベルという街での野外コンサートに出演しました」
——野外でやるのはクラブでやるのとは違うと思いますが、どうですか?
「やっぱり、お客さんも立って観ている人が多いし、開放感がすごいですね。みんながよりオープンになることが多いので、やる側も聴く側も許容範囲が大きいというか、楽しくなる可能性が常に高いですよね」
——昨年のBlue Note JAZZ FESTIVAL in JAPANでは、ロバート・グラスパーのピアノ・トリオが出ましたが、確かにクラブで聴くのとは違う開放感がありましたね。座りの席もありましたが、スタンディングで観てる人も多かったです。
「今回僕もステージがスタンディングの方なので、楽しみです」
——今回はMISIAさんとのステージですね。どんなステージになりそうですか?
「まだ無に近いというか、今から詰めていく感じですが、お客さんと僕とMISIAさんの中で共有できるものを出したい。やっぱりカヴァーをやるにしてもそういうものを選びたいし、MISIAさんのオリジナルをやるにしても、どこかコンセプトのあるものをやりたい。僕のバンド・メンバーはニューヨークからやって来るので、ネオソウル、もしくはネオR&B、アフロビート、ヒップホップの要素の強いものであるか、もしくはアコースティック・ベースまで入れて、思いっ切りジャズっぽいアプローチにするか。そうすると、MISIAさんにとってはおそらく斬新なアプローチになるだろうし、その辺をクロスオーヴァーできるのが醍醐味かなと。少し緊張感があるような、でも楽しみなコンセプトにしたいですね」
——アコースティックのジャズ・セットでどう歌うのか、ぜひ聴いてみたいですね。
「そうですね、すごく面白くなると思いますけども、早くMISIAさんとミーティングしたいな(笑)」
——MISIAさんの楽曲は如何ですか?
「曲自体はいろんな種類の曲をやられていて、ほんとに選びたい放題というか、ディスコっぽいのから、R&Bもあればソウルもある。しかも、どの曲のプロダクションもしっかりしているので、曲のイメージが強ければ強いほど、アレンジ作業が難しいなとは思います。で、それをどれくらいオープンに臨機応変な対応をお互いできるかっていうのがキーになるかなと。例えば有名な曲で同じプロダクションを期待されてしまったら、それは不可能で、僕らジャズのアコースティック・バンドなわけだから、僕らにしかできないアレンジが絶対あって、それを譲歩するのか、ぶつかって作り上げるのか、その辺の距離感が面白いんじゃないかって思います」
——MISIAさんのライヴ盤などを聴くと、バラードの曲と盛り上げる曲のバランスが上手く考えられているのが分かります。それを黒田さんたちのバックがどう演奏するのか、アレンジも含めて興味があります。
「そうですね、バック・バンドになり過ぎないことが大事だと僕は思っていて、MISIAさんには素晴らしいバンドがいますから、僕らはちょっとやんちゃなくらいが良いのかなと今は思っています」
——デヴィッド・ボウイの『★』のように、ジャズ・ミュージシャンが加わることで、ポップなシンガーも変わりますよね。
「流動的なものが常に後ろにあるっていうのは、緊張感も増えるでしょうけど、楽しみが増えるんじゃないかなと思いますね」
——ボーカルのアレンジの醍醐味って何でしょうか?
「メインのボーカルが真ん中にいて、その周りにどういうエレメントを足してトラックを作っていくのかという作業がすごく好きなんですよね。いつも楽しいですね」
——難しい面もありますか?
「聴かせたい人がどこにいるのかっていうのをきちんと把握するのが大切で、かっこいいことをやりたいって皆思うんですけど、歌の人が歌詞を出すのに対して、インスト音楽だと直接的な意味合いが出てしまうので、アレンジはわざと意味を出さずにやったら良いときもあるんですよ。シンプルにして。その抜き差しの加減を、伝えたい相手をはっきりさせることによってアレンジしていくのが難しいんですよね。楽しいところでもあるけど。なかなか簡単には行かないです」
——その意味で言うと今回は非常に面白い組み合わせですね。
「そうですね、歌唱力や表現力という意味ではとんでもなくハイレベルな方なので、どこまで受け入れて、どこまで乗っかっていただけるのかとか。やる前に一つだけ分かっているのは、ポケットの場所というかグルーブの場所というのが、明らかにニューヨーク寄りになるので、その時点でもうすでに雰囲気が相当変わるんじゃないかなって思います」
——もしジャズに寄るにせよ、本気度が違う試みになりそうですね。
「五分五分で音楽をプロデュースし合えるのが狙いですね。ぼくがMISIAさんのものを借りるわけではなく、MISIAさんがジャズを借りるわけではなく。ジャズも今ここまで来て、いろんなジャンルを淘汰できるようになり、プロダクションもこのレベルまで来ている。それに対して、ブラック・ミュージックのトップを走り続けている方と、今回共通点ができて、こんな大きなステージでプロデュースさせていただけるというのは楽しみですよね」
——では最後に、今回野外で演奏すること、ジャズを楽しむことについて一言いただけますか?
「スタンディングのお客さんの前で僕のバンドは演奏したいとずっと思っているし、実際ニューヨークのライヴは全部スタンディングでやっているので、僕にとってはむしろようやく日本でもできるんだなと。だから、これで僕のパフォーマンスというのはスタンディングでも成立するということが伝わればいいなと思いますね。今後のためにとても良い機会をいただいたと思っています」
原 雅明
音楽評論家。レーベルringsのプロデューサー、LAの非営利ネットラジオdublabの日本ブランチの運営も務める。近編著『ザ・ドリーム・シーン 夢想が生んだ架空のコンサート・フライヤー&ポスター集』
9.2 fri. Takuya Kuroda “Zigzagger” Release Party @ Brooklyn Parlor SHINJUKU/黒田卓也 (tp)、大林武司 (key)、大塚広子 (DJ)
黒田卓也 『ジグザガー』
(ユニバーサル ミュージック)