Yasei Collective松下マサナオとDJ大塚広子が語る、〈Blue Note JAZZ FESTIVAL〉がこれからの音楽シーンにもたらす役割 その1>>
interview=Mitsutaka Nagira, edit & text=Mikiki, cooperation=Brooklyn Parlor SHINJUKU
ゴーゴー・ペンギンはユラユラしてるのがいい
――大塚さんは前回の〈BNJF〉をご覧になって、いかがでしたか?
大塚「世代がとても幅広くて、ジャズ研の学生さんや大先輩のジャズ・ヴェテランもいたり、子ども連れで来ている若いファミリー層がシートを広げていたりと、のびのびした野外フェスらしい感じが良かったですね。オープン前の午前中から入り口に長蛇の列ができていたのが印象的でした」
――今年のラインナップについては、どういう印象ですか?
松下「(アース・ウィンド&ファイア)“September”のカヴァーでもやろうかな(笑)」
――マーカス・ミラーがアース・ウィンド&ファイアの“Brazilian Rhyme”をカヴァーしているから、ステージでその2組が共演するんじゃないかと思ってるんですよ(笑)。
大塚「ああ、去年のパット・メセニーとグラスパーみたいな※」
※前回の〈BNJF〉ではパット・メセニーのステージにロバート・グラスパーが登場し、共演を果たした
マーカス・ミラーの95年作『Tales』収録曲“Brazilian Rhyme”
アース・ウィンド&ファイアの77年作『All ‘N All』収録曲“Brazilian Rhyme”
――ヤセイがEW&Fのカヴァーをやったらみんな観に行くんじゃないですか?
松下「実はZA FEEDO※で“September”のカヴァーをやってるんですよね。13拍子のゴリゴリのやつ(笑)。あと僕、かつてジョージ・ベンソンをめちゃめちゃ聴いてましたよ。『Breezin’』(76年)が好きで、ハーヴィー(・メイソン)のドラムがすげえなと思って。あのバック・ビート、あのハットの感じ……大学の頃、いま在日ファンクでギターを弾いてる仰木(亮彦)とジャムってた時に、ベンソンの話をよくしていたんです。『Breezin’』もあいつから借りたんですよ(笑)……懐かしい。仰木と“Down Here On The Ground”(78年作『Weekend In L.A.』収録)を一緒に演奏した気がする」
※松下に加え、Yasei Collectiveからベースの中西道彦とギターの斉藤拓郎(サポート)が参加するバンド。先日ファースト・アルバム『2772』がリリースされたばかり
大塚「NY在住のベーシスト、中村照夫さんからジョージ・ベンソンの話を聞いたことがあるんですけど、彼は若い頃からオーラが他とは違ったんだそうです。当時から他のミュージシャンとレヴェルが全然違ったらしくて。その中村さんの話ぶりに、ミュージシャンズ・ミュージシャンでもあるんだなと思いました」
――マサナオさんは、マーカス・ミラーは聴いてましたか?
松下「全然と言ったらアレだけど、あんまり通ってないんですよね。フュージョンにあまり耳を傾けてこなかったので……。その親玉みたいな人でしょ?」
――最近のゴスペルっぽいベースのルーツって感じですよね。
松下「そうですよね。ガット弦で弾いてる90年代後半頃のイメージがすごくあるな。アル・ジャロウをプロデュースしたり、マイク・スターンと一緒に(マイルス・デイヴィスのバンドで)やっていましたよね。俺はその次とその前の世代の人たちをめちゃくちゃ掘っていたから、マーカス・ミラーはちょうどその合間の時代の人なんです。だから逆に、いまどういうことをやっているのかに興味あります。それはジョージ・ベンソンも同じで、現行のステージがどういう感じなのか気になる」
大塚「マーカス・ミラーは、ウェルドン・アーヴィンの77年作の未発表曲や80年録音の“Music Is The Key”のアレンジも含めていい仕事していますね」
マーカス・ミラーが参加した、ウェルドン・アーヴィンの92年の編集盤『Weldon &
The Kats』収録曲“Music Is The Key”
――意外とみんな知ってそうで知らないアーティストだったりしますよね。ではゴーゴー・ペンギンあたりはどうですか?
大塚「前回の来日公演には行けなかったんですけど、観た人たちがすごい、すごいと言っていたので気になってました」
松下「思ったよりオーガニックですよ。エレクトロニックなサウンドをやろうとしているけど、ピアノ・トリオ感は強い。ドラムも個性的でおもしろいし」
大塚「ジャズは入ってないの?」
松下「入ってる入ってる、かなりジャズ色強いですよ。前のアルバム(2014年作『V2.0』)に超センスのいい曲があって、打ち込みっぽいビートをドラムで作っているんですけど、ちょっと演奏がユラユラしているんです。ギリギリ下手か?という感じなんだけど、そこがいい。同じことを例えばマーク・コレンバーグがやるとカチカチな演奏になりすぎちゃうと思うんだけど、ゴーゴー・ペンギンはそのユラユラがいいんですよ」
ゴーゴー・ペンギンの2014年作『V2.0』収録曲“To Drown In You”
――イギリス発というのがいいんでしょうね。アメリカのバンドのマッチョな感じがしないところが。
松下「そうそうそう。フィジカルで攻めてないんですよね。それはハイエイタス・カイヨーテにも通じるところがあるなと思う。一方で、スナーキー・パピーあたりはかなりフィジカルでしょ。ロバート・スパット・シーライト(スナーキー・パピーのドラマー)なんてフィジカル一直線に見えるけど(笑)、あのバンドには彼が合ってる感じがする」
スナーキー・パピー“What About Me”でのロバート・スパット・シーライト
――ゴーゴー・ペンギンは、ベースのエフェクト使いなんかも日本のバンドに参考になりそう。ジャズに限らず。
松下「確かに」
――では、黒田卓也×MISIAはどうですか?
松下「俺は超楽しみにしています。黒田さんには会ったことがないから余計に」
――でも、この2人のステージは予想がつかなすぎますね。
大塚「つかないですよね。でも黒田さんは、JUJUやOrange Pekoeのヒット作にも昔から関わっていますし、2014年のNia(Orange Pekoeナガシマトモコのソロ・プロジェクト)の作曲/アレンジ/プロデュースもやってましたから、女性ヴォーカリストとのコラボは自然というかお手の物ですよね。この流れでのMISIAはある意味、やっときた!という感じで期待が高まります。新作の『Zigzagger』も素晴らしかったですね。 DJフロアでの反応も抜群です」
Niaの2015年作『NIA』収録曲“I REALLY MISS YOU”
黒田卓也の2016年作『Zigzagger』収録曲“R.S.B.D”
〈BNJF〉は思っている以上に重要な役割を担っている
――では〈BNJF〉にまつわる今後の話もちょっと訊かせてください。〈BNJF〉は新感覚のジャズ・フェスだと思いますが、それについてはどう思いますか?
松下「今回からメインの2つのステージだけじゃなくて、フリーで観られるステージが出来ましたし、今後も僕らやその周りにいるようなミュージシャンだけじゃなくて、いろんな気鋭のミュージシャンが出られるようになるといいですよね。海外のアーティストが来るわけだから、そういう人たちの目に触れれば、僕らがニーボディやノウアーと繋がったようなコネクションが生まれるかもしれない。そうなると、このフェスが次世代にもたらすものは大きいと思うんですよね。集客のことだけ考えたら長続きしないだろうけど、今年俺らを呼んでくれたのは、今後のことも見据えてのことだと思うし。本当の意味でのカッコ良いフュージョンな場所になるといいなと思いますね。ラインナップを観てそう思いました」
大塚「私も同じようなことを考えていました。5月に伊勢丹新宿店のニューヨーク・ウィークの音楽プロデュースをさせてもらったんですが、安藤康平(サックス)君や、山本連(ベース)君といった若いミュージシャンのライヴをブッキングさせてもらったんです。吉田サトシ(ギター)さんやペインティングのNOVOLさんやダンサーたちも入れて、ジャンルもミックスした形にしたんですが、彼らといろいろ話をするなかで、〈BNJF〉みたいに、いまいちばんエッジーなフェスで海外の憧れのバンドと共演できたり、自分たちのプレイを観てもらえる可能性があるというのは、自分たちやこれからの世代にとってとても意味があるなと思った。日本の若いミュージシャンが〈来年はあのステージに立ちたい〉と思えるフェスがなければ、自分たちでやればいいやとなって、どんどんシーンが小さくなってしまうから」
松下「若いミュージシャンだけじゃなくて、上の世代にも言えますよね。日本人にはこんなに格好良いミュージシャンがいるんだよってことを、こういった国内外のアーティストが出るフェスで発信してほしい」
大塚「そうすればどんどんシーンが活性化していきますよね」
――それこそ〈BNJF〉は、世代や国境、あるいはジャンルの壁すら超えて、新しいクロスオーヴァーを日本や海外の音楽シーンにもたらす場になるかもしれないですよね。本当にそうなったらおもしろそう。
松下「そうですよ。Yasei Collectiveなんて全然ジャズじゃないし、普段そのフィールドにはいないけど、本当のジャズ・フィールドにいる人たちは、俺らなんかよりずっとこのフェスに出たいだろうし、そういう奴らをフックアップしてほしいなと思います」
大塚「めちゃくちゃ同感です」
――世代的にも、既存の音楽フェス以上に幅広い人たちが来られるフェスになる可能性もあるし。
松下「〈BNJF〉は今後のシーンにおいて、思っている以上に重要な役割を担っているフェスだと思います。海外勢だけでなく、日本勢もメイン・ステージでも起用できるようになると、また変わっていくんじゃないですかね」
――では最後に、フェスへ来るお客さんに向けてひとことずつお願いできますか?
松下「初めての人も足を止めて見てもらえたら嬉しいです。よろしくお願いします!」
大塚「これほど自由にジャズを体感できるフェスってないと思います。ぜひ一緒に楽しみましょう!」
柳樂光隆
79年島根県出雲生まれ。ジャズとその周りにある音楽について書いている音楽評論家。〈Jazz The New Chapter〉シリーズと「MILES : Reimagined 2010年代のマイルス・デイヴィス・ガイド」(共にシンコーミュージック)の監修を務める。音楽雑誌~サイトへの寄稿、CDライナーノーツの執筆も多 数。
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