2016年9月に行われた『Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN』のページです。
2016 9.17 sat. 横浜赤レンガ野外特設ステージ


ジョージ・ベンソン、マーカス・ミラー、ゴーゴー・ペンギン―〈Blue Note JAZZ FESTIVAL〉が一層気になる各アクトの注目ポイントをズバリ解説! Pt.2 その1>>

text=Hikaru Hanaki

 

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MARCUS MILLER

 

「今回の〈BNJF〉はギターとベースで、それぞれジャズを代表する超一流のプレイヤーがメイン・ステージに続けて出演するのもすごい話ですよね。その後に出演するアース・ウィンド&ファイア(以下:EW&F)も、ヴァーダイン・ホワイトはベーシストとしてかなり人気の高い実力派プレイヤーだったりしますけど」

柳樂「マーカス・ミラーは一番影響力のあるベーシストって感じですよね。マイルス・バンドの一員だった人でもありますし。デリック・ホッジ※やネオ・ソウル一派のベーシストは、実はマーカスの影響が大きいみたいです。デリック・ホッジに最近取材した時も、マーカスの『Tales』(95年)をよく聴いていたと語ってました

※ロバート・グラスパー・エクスペリメントのベーシスト。マックスウェルの音楽監督を務め、コモンやモス・デフなどの作品/ライヴにも参加。ソロ2作目『The Second』の日本盤を9月14日にリリースする

 


95年作『Tales』収録曲“Tales”

 

柳樂「それでいて、2015年の最新作『Afrodeezia』では〈Black Lives Matter※〉系のメッセージを込めた曲でチャック・Dがラップをしていたり、ロバート・グラスパーとか最近のジャズメンが参加していたりと新しいことにも取り組んでいて」

※アメリカ国内で相次ぐ白人警官による黒人の射殺など、アフリカン・アメリカンを取り巻く人種問題が顕在化していくなかで勃発した〈新たな公民権運動〉。ケンドリック・ラマー『To Pimp A Butterfly』(2015年)や、ニーナ・シモンのトリビュート盤『Nina Revisited… A Tribute To Nina Simone』(2015年)など、この動きをテーマとした楽曲/アルバムが近年多数リリースされている

「アフリカ回帰、黒人ルーツ的な要素を含むアルバムですよね。それにマーカスはベンソン以上に常にイマっぽい」

 


2015年作『Afrodeezia』収録曲“I Can’t Breathe”

 

柳樂「それこそ、80年代に関してはジャズ・シーンにおけるプリンスみたいな人でしたよね。新作にはグラスパーのほかにも、アンブローズ・アキンムシーレやレイラ・ハサウェイも参加していて。それに、その一つ前のアルバム(2012年作『Renaissance』)でもグレッチェン・パーラトが歌っているうえに、バック・バンドもわりとゴリゴリなんですよ。ホセ・ジェイムズのバンドにも参加していたクリス・バワーズが鍵盤を弾いてたり、BIGYUKIとも仲の良い人ドラマーのルイス・ケイトーが叩いていたりして」

「確かに、ベンソンが売れっ子とタッグを組んできたのに対して、マーカスはもう少しアンダーグラウンド的な、尖ったミュージシャンと組んできたイメージかもしれない。マーカスは新しい空気を察知して、的確に選んでいる。古い話だけど、ルーサー・ヴァンドロスはソロで活動しはじめた初期の頃からマーカスとタッグを組んで、当時の最先端を走ってたわけですよね」

柳樂「〈ザ・ブラック・コンテンポラリー〉って感じがしますよね。演奏も死ぬほど上手いし。そういえば、林さんはこの間のイヴェントでコリーヌ・ベイリー・レイとの曲をかけてましたよね」

「そう、それはデニース・ウィリアムズのカヴァーで、モーリス・ホワイト(EW&F)のカリンバ・プロダクションズ繋がりということで、こじつけでかけたんですけど。こういう歌モノの曲でも、マーカスは遠慮しないですよね」

柳樂「ですよね、遠慮せずにベースを弾きまくるという(笑)」

 


コリーヌ・ベイリー・レイをフィーチャーした2007年作『Free』収録曲“Free”

 

柳樂「あと、マーカスはEW&Fの“Brazilian Rhyme”をカヴァーしているから、〈BNJF〉でも一緒にやればいいんじゃないかな」

「うんうん、EW&Fの時にマーカスが飛び入りしてくれたらいいですよね。それは可能性も高そうだし、今回のメイン・ステージで一番期待したいポイントかもしれないな。ヴァーダイン・ホワイトとマーカス・ミラーが並んでベースを弾くという場面を想像したら、それだけで鳥肌が立ちます」

 

 

 

柳樂「“Brazilian Rhyme”はブラジル音楽由来の成分が入った曲で、J・ディラもそうだし、Zeebraも“Parteechecka”という曲でサンプリングしていたりする、大ネタ中の大ネタですよ。ダニー・クリヴィットによるエディット版も有名ですね」

「EW&Fのなかで、ブラジル音楽は初期の頃から大きいですから。“Brazilian Rhyme”も、もともとはミルトン・ナシメント経由で、トニーニョ・オルタの曲をリメイクした未発表楽曲の後半に登場するスキャット部分をインタールードとして利用したものだったりしますから」

柳樂「それこそ、ジョージ・デュークやウェイン・ショーター経由ですよね。あとはCTIとか」

 

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GOGO PENGUIN

 

柳樂「ゴーゴー・ペンギンはエイフェックス・ツインのような音楽を人力で演奏するバンドで、ブルーノート東京で4月に行われた初来日公演はすごく盛り上がってました。若いお客さんがいっぱい来てましたね」

「僕は観たことないので、今回すごく楽しみなんですよ」

柳樂「ライヴも想像以上にアグレッシヴで良かったですね。本国のイギリスで〈マーキュリー・プライズ〉にノミネートされるだけあって、スケールの小さいこじんまりとしたトリオって感じではなくて、大きいステージでも映える音を生み出せるバンドだと思いました」

 


2016年作『Man Made Object』収録曲“All Res”のライヴ映像

 


2016年作『Man Made Object』収録曲“Weird Cat”のライヴ映像

 

「今回の〈BNJF〉に来るお客さんは、EW&Fやアンドラ・デイが目当てのR&Bファンも結構多いと思うんですけど、そういう人たちにゴーゴー・ペンギンのどういったところを聴いてほしいですか? 例えば、この前のマックスウェルの来日公演でバックを務めていたデリック・ホッジやキーヨン・ハロルド、ケネス・ウェイラム3世のような、R&Bのバックで演奏しているジャズ・プレイヤーにも注目しようという空気も少なからずあると思うんですが」

柳樂「ずばり、タイトなリズムじゃないですか。ネオ・ソウルみたいにレイドバックするんじゃなくて、カッチリとしたマシーンそのままみたいな演奏なんですよ。それに、ニック・ブラッカ(ベース)とロブ・ターナー(ドラムス)のリズム隊もすごいんですけど、ピアニストのクリス・アイリングワースもクラシック音楽の出身で、当然のように左右の手で全然違うことを弾くテクニシャンで」

「へー、なるほど」

 


2014年作『V2.0』収録曲“Hopopono”のライヴ映像

 

柳樂「さっきも話したように、ライヴだと思った以上にサービス精神があるし、ベースもエフェクターとかを使ってローエンドをしっかり出せるように工夫しているから音も太い。だから、野外でも楽しくノれる類のバンドだと思います。あとは、ブラック・ミュージックよりもレディオヘッドに感性が近いというか。ロックやエレクトロニック・ミュージックが好きな人にも入りやすい感じがある。若い人にも人気が出るのも頷けますね」

★音楽レビューサイトMikikiのゴーゴー・ペンギン関連記事をチェック!

◎ゴーゴー・ペンギンとジャズ・アンサンブルの未来―プログラミングを生演奏で超越した新アルバム徹底解説&NYライヴレポも!
http://mikiki.tokyo.jp/articles/-/9905

◎波多野裕文(People In The Box)×yuichi NAGAO、ゴーゴー・ペンギンと現代ジャズ巡るディープな音楽談義
http://mikiki.tokyo.jp/articles/-/10480

◎ゴーゴー・ペンギンが挑む、ジャズと即興の新しい関係―エンジニアも奏者と捉える挑戦的なバンド観を明かす
http://mikiki.tokyo.jp/articles/-/10705

 

「こうやって一通り振り返ってみると改めて思いますけど、やっぱり今回の〈BNJF〉はどれを観ても外れはなさそうですね」

柳樂「ゴーゴー・ペンギンがちょっとだけ異色かもしれないですけど(笑)、彼らがフェスのエッジーな部分を際立たせているとも言えそう。あと、今回は飛び入りが前回以上に実現するかもしれないですね。バンドというよりもグループっぽい出演者が多いので」

「さっきも話に出た“Brazilian Rhyme”での共演は大いに期待したいですね」

柳樂「あとは、黒田卓也さんがEW&Fのホーン・セクションに入ったりとか。そういう想像も膨らませつつ、思う存分ライヴを楽しみたいです」


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