2016年9月に行われた『Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN』のページです。
2016 9.17 sat. 横浜赤レンガ野外特設ステージ

interview & text = Tsuyoshi Hayashi
photography = Myriam Santos[main photo]

 

 スティーヴィー・ワンダーに歌声を気に入られ、2015年にメジャー・デビューを果たしたアンドラ・デイ。今年のグラミーでのパフォーマンスが大きな話題となり、本フェスでもアース・ウィンド&ファイアーやジョージ・ベンソンを抑える勢いで期待の声が高まっている。そんな彼女に来日公演に対する思いを聞くことができた。

 アンドラ・デイは米カリフォルニア州サンディエゴ出身のR&Bシンガー。地元の芸術学校(SDSCPA=Sandiego School of Creative and Performing Arts)でジャズやクラシック、ダンスを学び、お店のオープン・イヴェントで歌っていたところスティーヴィー・ワンダーと暮らす女性の目に留まり、スティーヴィーの仲介でワーナー・ブラザーズからデビューしたという、まさにシンデレラ・ストーリーを地で行く女性だ。昨年冬には、CMでスティーヴィーの名曲「想い出のクリスマス」を本人と共演。スティーヴィーについては「貪欲なハングリー精神を持った子供のようにも見えるわ。それは彼が音楽を作ることに喜びを感じているということね」と話すが、アンドラも以前からジェシー・Jの「ママ・ノウズ・ベスト」やエミネムの「ルーズ・ユアセルフ」などの曲をカヴァーした動画をYouTubeで披露するなど、音楽をやることに対しては人一倍貪欲だ。

 「ロック、ソウル、レゲエ…良い音楽は時代に関係なく何でも聴くけど、自分の人生に一番影響を与えたのはヒップホップ。2パックとナズが大好きなの」と話す一方で「チェス・レコーズの音楽、それにフラミンゴスやプラターズのようなグループも好き」と言うように60年代以前の古い音楽にも愛着を示す。

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 制作陣にヴェテランのエイドリアン・ガーヴィッツやR&Bの名匠ラファエル・サディークらを迎え、「家族を作り上げていくような感覚で一緒に曲を作った」という2015年のデビュー・アルバム『チアーズ・トゥ・ザ・フォール』もリード・シングルの「フォーエヴァー・マイン」からフラミンゴスのドゥー・ワップ名曲を引用した古き良き時代の雰囲気。それはビリー・ホリデイやニーナ・シモン、エタ・ジェイムスを思わせると話題になった。

 「(地元の)南カルフォルニアには、とても大きいロカビリーのカルチャーがあって、よく父や学校の仲間とクラシック・カーのショーを見に行ってたんだけど、そこにビリー・ホリデイやレナ・ホーンみたいなピンナップ・スタイルの女性がいて、ここから40~50年代、60年代初期あたりのスタイルを取り入れるようになったの」

 「フォーエヴァー・マイン」はスパイク・リーが手掛けたミュージック・ヴィデオもそうした雰囲気で、現代で言うなら故エイミー・ワインハウスやアデルを思わせる。そして、アルバムにはビター・スウィートなラヴ・ソングが多い。

 「私の経験、感情、そして精神的な成長が込められているわ。昔付き合っていた彼がいて、私は彼に対して誠実ではなかった。その時は彼がどれだけ悲しかったか気づくことが出来なかったんだけど、神様の助けもあって成長して、新たな自分と向き合えるようになった。この経験をもとに、今悩んでいる人の助けになればと思って曲を書いたわ」

 

 

 第58回グラミー賞では2部門にノミネート。先日は米大統領選に向けた民主党全国大会で「ライズ・アップ」を歌い、彼女いわく「圧倒的な体験をした」と振り返る。

 「何より感銘を受けたのは、私のパフォーマンスが〈Mother’s Of The Movement〉(※Black Lives Matterの活動に身を置く、被害を受けた黒人の子供を持つ母親たちのグループ)のスピーチでフォローされたことね。実際に彼女たちに会うことも出来た。そして私は彼女たちに今の不正義に対して立ち向かう姿勢への感謝と、実際に起こった悲劇への追悼の言葉を述べたわ。ヒラリー・クリントンと〈Mother’s Of The Movement〉のメンバーたちは私が出会った中でも一番強い女性たちと言える。こうした経験が、さらに私の気持ちを深めたの」

 

 

 最近では映画『ベン・ハー』(リメイク版)のサウンドトラックにも楽曲を提供するなど絶好調のアンドラ。とにかく「すべてを受け止めてサポートしてくれている人たちへの感謝しかない」と彼女は言う。そして今回の初来日公演では、同サントラ提供曲を一緒に書いたデイヴ・ウッド(ギター)を含む4人のバンド・メンバーを従えてステージに立つ。

 「情緒的でありながら楽しいステージになると思う。常に新しい経験と音楽創作をして何ものにも縛られないリアルな私たちを見てほしいわ」

(出典:ブルーノート東京PRマガジン JAM vol.173)

 

林 剛(はやし・つよし)
1970年生まれ。R&B/ソウルをメインとする音楽ジャーナリスト。各所で執筆。昨年〜今年出したディスクガイド(ディアンジェロを軸にした『新R&B入門』、マイケル・ジャクソンを軸にした『新R&B教室』)も好評発売中。

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